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「コトワザウルス」~過ぎたるは…

2015年1月29日(木)12時07分更新

 本サイトご隠居顧問が世に伝わる諺、名言(迷言?)、ご託宣…などなど言葉の数々をクローズアップしてお届けする不定期コラム「コトワザウルス」。アラサン(アラウンド傘寿)世代のご隠居が、久しぶりに人生の先輩をメディアで見かけ、がく然とした。長生きは「苦しきことのみ多かりき」か――ある身につまされる出来事を思い出した。

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寂聴さんらしからぬ言葉がつづられた自身が開く寺院「曼陀羅山 寂庵」のHP

寂聴さんらしからぬ言葉がつづられた自身が開く寺院「曼陀羅山 寂庵」のHP

 まさか、仏の道を説いておられた作家・瀬戸内寂聴さんがこんなことをおっしゃるとは思いもよらなかった。今年の5月に93歳になられるが、つい最近、ご自身が関係するホームページ上に「もう生きているのが嫌になった」とメッセージをお出しになったのを拝読し、思わず目を疑ったね。寂聴さんといえばもう説明をするまでもない〝恋多き女流作家〟で、文学賞や文化勲章まで数々の名誉ある賞を受け、近年は天台宗の尼僧(位は大僧正)として多くの人々に説法を施してきた人物だ。つまり「世俗的な迷い」からはとうの昔に別れを告げた徳の高い僧侶であり、そのような迷い多き人々をいさめ導く立場にある尊い伝道師の一人と思っていたのに…。

◇気丈に生き続けていた

 92歳といえば忘れられないことがある。卑近な例で気が引けるが、いま筆者が住んでいる家の2~3軒先に、会えば挨拶を交わす程度の付き合いの老婆が暮らしていた。30代半ばで連れ合いと死に別れて以来、1男1女を女手一つで育て上げたが、二人が所帯を持って独立してからは40年以上も独り暮らしを続けていた。乳がんをはじめ、いろいろな病気を克服しながらも、ご主人が残してくれた住まいをアパートにして細々と質素に暮らしていた。しかし、風呂なし、トイレは共同というアパートでは、いくら駅が近く、家賃が安くても、もはや貧乏な学生でさえ見向きもしない時代。安アパートはすべて空室となった。

 それでも彼女は一切の保護や援助を受けず、ささやかな貯えを取り崩しながら、気丈に生き続けていた。90歳を過ぎてからも、乳母車を改造したような手押しぐるまを使って往復1㌔以上はある商店街まで運動を兼ねた買い物に出かけていたらしい。掃除、洗濯、炊事などはもちろん、10坪ほどの小さな庭の植木や鉢植えの花の手入れや水やりと、絶えず体を動かすことを心がけていた。

◇長生きするということは…

 彼女が〝アラフォー〟のころ、浮いた話が三つ四つ噂になったことがあったようだが、その恋多き時代の影響だろうか。90歳になろうとする頃もオシャレを忘れず、身ぎれいさを失わなかった。その彼女が…。これまでの元気さを失い始めたのは4年前の東日本大震災が襲ってきた3月11日からだった。あの日、東京でも強く長く揺れたが、揺れが収まった後も、彼女の表情は恐怖で醜く歪んでいたという(となりに住み、彼女の安否を確かめに行った主婦の話)。以来、目立たないように少しずつ彼女の身辺整理が始まった。鉢植えの花を褒めた人には、笑顔で「よかったら持って行きなさい」と惜しげもなくあげたりもした。

 その一カ月後、電車で1時間ほど離れた町に住む長女を電話で自宅に呼びつけた後、彼女は自ら命を絶った。縊死だった。近所の人に迷惑をかけないようにとの配慮がうかがえた。いつの頃から考えていたのかは知る由もないが、この事件と寂聴さんの言葉を重ね合わせると、長生きするということは、格別の覚悟がいるものらしい。いま、80歳を目前に考えさせられている。「過ぎたるは及ばざるがごとし」とか。長生きを目指して健康維持に努めてはいるが、さて、どうしたものか。いや、寂聴さんは…。筆者はこう考えたい。「♪もしかしてだけどぉ~、きっと先生は最後の恋にやぶれでもしたんじゃないのォ~」

 こうでも思わなきゃ、13年後の真っ暗な老後に向かってささやかな努力を続けている自分が分からなくなってくる。

 


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