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安保法制の陰で消えた元自衛隊幹部

2015年6月1日(月)12時38分更新

 去る14日付の本サイト「安保法制閣議決定は国民への裏切り行為」の記事中、50代の会社員Aさん(前回の記事では単に会社員)の話を覚えているだろうか。高校時代のAさんの友人に防衛大学校出身のBさんがいて、そのBさんが今は自衛隊を辞めて行方不明になっているとお伝えした。

◇俺の力で日本を守ってみせる

 Aさんに改めて詳しいいきさつを聞いてみた。Bさんは、クラスでは可もなく不可もない成績で、また目立つわけでも、かといっておとなしいわけでもなかった。バスケットボール部に所属し、ごくふつうの高校生活を送っていた。体を鍛えることが好きだったようで、暇さえあればそこいら中で腕立て伏せや腹筋を始め、「俺の力で日本を守ってみせる」が口癖だったらしい。周りから「何ワケわかんねえこと言ってんだよ」などとからかわれていたが、防衛大学校に現役で合格したことで、周りも納得した。

海外派遣で自衛隊員が命を落とす危険度は確実に高くなる(「別冊宝島 自衛隊の真実」=宝島社刊)

海外派遣で自衛隊員が命を落とす危険度は確実に高くなる(「別冊宝島 自衛隊の真実」=宝島社刊)

「頑固というわけではないけど、真っ直ぐな性格で、人一倍正義感は強かった。防衛大に入ったのも、自分の将来設計がシッカリできていた証拠」とAさんは振り返る。Bさんは防衛大卒業とともに、陸上自衛隊に配属された。Aさんも東京の大学に入学し、卒業後はそのまま都内の民間企業に就職した。

「大学時代からお互い、なかなか都合が合わず、田舎の同窓会でたまに顔を合わすのが関の山。Bがちょうど木更津の駐屯地にいた時だったと記憶しているけど、今から10年以上前、2000年をちょっと越えたころにBから私に連絡が入り、『東京に出てきている連中でクラス会をやろうぜ』となった。それで結局、私が声を掛け、高校時代の同級生5人で集まることになった」

 同窓会で数年に1回くらいのペースで会っていたが、その時に会ったのは5~6年ぶり。Bさんは変わりなく元気にしていたが、かなり飲酒のペースが速く、何度かトイレに駆け込んでいたという。それから半年に一度くらいのペースで、都内で定期的にクラス会を開催するようになり、スケジュールが最優先されていたBさんは必ず出席。ただ飲酒のペースはいつも人一倍速く、トイレで吐いてはスッキリして、また飲むという繰り返し。

◇海外に行きたくない

 Aさんはハッキリ覚えていないというが、「何度目かのクラス会の時、終わって2人で駅まで歩いていると、Bがフラフラと倒れそうになったんで、『大丈夫か』と支えて、しばらくその場に座らせた。『飲み過ぎだぞ』と注意すると『ゴメン、多分、薬のせいなんだ』といって、精神安定剤の世話になっていることを打ち明けてくれた。その時は単純に『自衛隊の任務は大変なんだな』くらいにしか思っていなかった」。

 Aさんは「日時の記憶は定かではない」というが、2003~4年に会った時に、前回の記事でもお伝えしたように、Bさんが居酒屋で他の客とトラブルになり、あわや警察沙汰になりかけた。

「海外(イラク)に行きたくない」

 弱音を吐くようなタイプでないBさんが、クラスメートを前に口にした言葉に、一同、掛ける言葉を失った。ただAさんも他のクラスメートも、自衛隊の海外派遣がどれほど自衛隊員のBさんに負担になっていたかなど、その時点では全く想像もしていなかったという。

「年をとれば、また役職も上がれば責任も重くなるし、悩みも増える。その程度にしか考えていなかった」(Aさん)

 結局、その後、Bさんが海外派遣されることはなく、その代わり東京・三宿にある自衛隊中央病院に入院することになったという。「Bから直接電話があり、体調を崩してしばらく入院すると連絡があったので、『じゃあ見舞いに行くよ』というと、『ありがたいけどやめてくれ』と言われたので、気にはなったけど、事情があるのだろうと気を使い結局、見舞いに行かなかった」(Aさん)

 その後、Bさんからの連絡はAさんになく、そのうち、クラスメートからの知らせで、Bさんは病院を退院し、自衛隊も辞めたという話を聞くことになる。その時点ですぐに携帯に電話したが「おかけになった電話番号は、現在使われておりません」。仕方ないので、第三者を通して奥さんに連絡を取ったが、何でもかなり前に離婚していて、今はどこにいるのかもわからないという。田舎の実家もすでに引き払っており、いまBさんは生きているのか死んでいるのかも含め、所在不明が続いているという。

◇詭弁を弄せず、事実を言え!

 図らずも27日の衆院特別委員会で、2003~09年までイラクに派遣された自衛隊員のうち自殺で死亡した隊員は29人、また01~07年にインド洋の給油活動に派遣された隊員で自殺者は25人、合計54人もの尊い命が自死という結果で失っていたことが明らかになった。海外派遣との因果関係やPTSD(心的外傷後ストレス障害)は、イラク派遣で死亡したうちの4人だけ認められているようだが、ほかは原因が特定されていないという。

 果たして安保法制審議が続くなか、安倍首相、中谷防衛相ほか、閣僚の面々は雁首揃えて「自衛隊員の(命の)危険性が増すことはない」と断言し続けるが、これらの詭弁はもはや通用しない。少なくとも、現在、入隊している自衛隊員のほとんどは「専守防衛」を旗印とした自衛隊に入隊している。それが今後、海外に派遣されることで、つねに生死と背中合わせの環境で働かされるとなると、肉体面より精神的な負担のほうが遥かに重いに違いない。

 Aさんはしみじみとこういう。「海外に派遣される部下のことを含め、Bも人知れず、その恐怖におびえていたのかもしれないと思うとやりきれない思いでいっぱいだ。安倍総理も中谷防衛大臣も、結局、自分たちは常に安全な場所にいて指示を出すだけ。最前線に立たされるのはつねに自衛隊員だ。総理、あなたたちにも心配してくれる家族や友人知人がいるのと同様、自衛隊員にも等しく愛してくれる家族や友人知人がいる。日米安保条約を隠れ蓑に、自衛隊員がまるでアメリカに対する人身御供のように差し出されるのであれば、あなたたちは人の命をもてあそんでいるとしか言いようがない。安倍総理、あなたを見ていると、あれだけ『俺の力でこの国を守ってみせる』と言っていたBが浮かばれない。とにかく、どんな形でもいいから、Bが元気でいてくれることを願うばかりだ」

 日本国民が平和に暮らすためには何が最も大事なのか――安倍首相! それが安保法制というのであれば、それはそれで仕方がない。ただそのために、海外派遣される自衛隊員の命の危険度は確実に上がることだけは、しっかりと説明する必要がある。いや一国の宰相としての最低限の責務。詭弁を弄している場合でないのだけは確かなのではなかろうか。Bさんの無事を、本サイトとしても願いたい。


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1 Response

  1. 日本男児は 心に帯刀を (A.H.)月光

    (題): 真実を見落とすな! 亡国勢力の誘導で日本人は誤った議論をしている

    安保法制・集団的自衛権は違憲である、自衛隊は戦力だから違憲である・・・と主張する多くの憲法学者や9条護憲を連呼する国会議員・一般国民には肝心な言葉が抜けています。

    ★『(アメリカが日本に充てがった)憲法に違反しています』と言うべきです。

    つまり、独立国として日本国は当然に拒否しなければいけない筈の条文と(安保法制・集団的自衛権・自衛隊)を比較しているという、とんでもない過ちをしていることに国会議員・新聞・TV・学者・一般国民の誰もが気付いていないのです。

    投稿日2015年7月1日 PM 12:11

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