連載コラム『クレーマー天狗』第9回~アンチ・グルメ~
アラカン(還暦)ならぬアラサン(傘寿)世代の本サイトご隠居顧問が、あらゆる話題に斬り込む『クレーマー天狗』。今回、ご隠居のターゲットになったのは、すっかり食通気取りの我々日本人だ。特にひもじい思いをしたことのない戦後生まれには手厳しく、「一億総グルメの行きつく先はどこだ?」と警鐘を鳴らした。
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?「マグロのトロを乗せたスシが一貫3000円!コハダが高級魚? べらぼうめぇ、昔はマグロのトロなんざぁ、真っ先に生ごみバケツにポイだし、コハダなんざぁ九州のキビナゴみてぇなもんで、はいて捨てるほど取れたから、タダみてぇに安い雑魚(ザコ)だったぜ」なんて怒っている爺さんがいた。もう少し爺さんの啖呵(タンカ)を聞いてみよう。
「銀座の『K』とかいうすし屋が高級料亭並みにあがめられているらしいじゃァねぇか。値段も並みの懐石料理以上だってぇのに、カネがあるなら誰でもござれってわけでもねぇらしい。だからって握り手の板前さんを拝むように有難がって、客だかテレビのリポーターだか知らねぇが、いちいち板さんのお説を拝聴しながら、まるでヤギみてぇに〝ウメェ、ウメェ〟とバカの一つ覚えを発してやがる」
◇世界三大珍味はタダでも手が出ない!?
どうやら回転寿司さえもままならない懐ぐあいから、腹立ちまぎれの口から出まかせかとも思ったが、居酒屋で飲む焼酎のお湯割りのサカナには丁度いい。ついつい終いまで聞いてしまった。
「大体、スシなんてぇものは、屋台が発祥よ。ゆう屋(銭湯)の前で小腹をすかした湯上りの客を相手に、でかい古米のシャリの上に安いネタを乗せた奴を2個だ、3個だって商っていたのが始まりよ。だからって、バカにする訳じゃねぇが、まぁ、スシもえらく出世したもんよ。今じゃ世界中でスシ、スシって騒いでいやがるから、そのうちマグロが何とか条約とやらで食えなくなろうぜ。ざまぁ見やがれ!」
ウソかほんとかは別にして、親父のタンカが耳に心地よくて、気がついたらいつの間にか親父もその連れも消えていて、珍しく自分がいつもより酔い過ごしていたというお粗末。しかし、かくいう天狗の爺さんもいわゆるグルメとは縁遠い世代。育ち盛りにサツマイモのツルや葉っぱ、家畜でも敬遠しそうな大豆カスや苦味のあるトウモロコシの粉、裏なりの水っぽいカボチャなど、口に入るものなら何でも食ってきた、いや食わされてきた後遺症で、贅沢なうまいものには拒絶反応を起こす。フォアグラ、トリュフ、キャビアなど、聞いただけで震えが来るってぇのは嘘だが、たとえタダでも箸が出ない。
◇グルメの本質を知るべし
ほんとにうまいものとは、①まず旬のもの②その土地の名産品③野菜なら露地物、魚なら近海物と限定はするが、決して高いものとは限らない。イワシやアジ、サバ、イカは生でも干物でも最高! わかめ、ヒジキ、こんぶなど調理は問わない。野菜は朝取れのものが望ましいが、ホウレンソウ、白菜、きぬさや、トマト…あぁ、書いてるだけでよだれが出てくる。取れとれなら何でもいいが、大根の葉、蕪の葉なんか味噌汁の具に大歓迎。さらにこれがぬか漬けとくれば、このみじん切りにしょうゆの香りを付けた奴がアツアツのご飯にぴったりだ。ちなみに山形地方には『だし』という野菜の食べ方がある。きゅうりとナスを千切りにしてどんぶりに入れ、刻んだ大葉、みょうが、削り節を乗せ、これに醤油をぶっかけてアツアツのご飯に乗せて食うのだが、うまくて朝めしがすすむ。あと切干大根、おからの煮つけ。
こんな何でもないものたちが持つ極上のうまさを知らずにいるなんて、ほんとに気の毒だよ。だから高い銭を払ってグルメを気取ってるんだろうが、あの爺さんの言葉を借りて「ざまぁ見やがれ」だ。
(本サイトご隠居顧問=当コラムは毎週月曜、木曜の週2回掲載=都合により休載の場合もありますのでご了承ください)
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