集中連載『テレビって奴は』第24回~「投入」の誤用に御用~
あと○年と●ヵ月で傘寿を迎える本サイトご隠居顧問が物申す! いつも「テレビはわれら年寄りの最大の親友。だからこそのお節介な忠告です」というご隠居が、久しぶりに言葉のプロたちが繰り広げる誤用に御用だ。ご隠居顧問の小噺連載『テレビって奴は』の第24回は「二字熟語に脂下(やにさ)がりやがって!」。こうご隠居が怒る理由とは。
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今から70年ほど前、おいらジジイたちが子どものころの話だが、近くの下宿屋さんにいる学生さんがおいらガキどもを集めてさ、よく自慢話をブチかましてくれたもんだ。その頃の学生は全員が制帽、制服を着用していたから、どこの大学かはガキにもわかったよ。角がとんがった座布団型の帽子なら早稲田、浅い帽子なら慶応、少し四角いけど角が丸いのは帝国大学とかね。
◇ニヤケるの語源は…
そんなことはどうでもいいが、こいつらが貧乏人のガキを見下したような顔で、こんなことを言ったのよ。
学生「君らこういうこと知ってるかい? ぺらぺらぺら……」
ガキ「‥……?」
学生「なんだ、こんな事も知らないのかい。つまりこれはだねぇ……」
ガキ「(水っ洟をすすりながらキョトーン)」
そんなところを通りかかったペンキ屋の大将が自転車に乗ったまんま「けっ、あの野郎ヤニ下がりやがって…」なんてつぶやいてたっけ。「ヤニ下がる」とは「脂下がる」と書き、(気取って構える)(得意げになってニヤニヤする)といった意味だ。ちなみに近年、50歳以下の人たちの中には、気取ったり、得意げになってニヤニヤしている奴に「おい、おい、お前そこで何ニヤケてんだよぉ」なんてたしなめたりする手合いがいるが、この使い方はおかしいぜ。
「にやける」は「にゃけ(若気=男が色めいた姿をしたさま)」から来た言葉で、意味も「男がめめしく色めかしく見える」ことを言う。今のところテレビの関係者が間違って使っているのは未確認だが、期待して待ってますよ。
◇音読み二字熟語の乱用にご用心
さて、本題に入ろうか。このところ目立つのは音読みの二字熟語の乱用、誤用。あるプロ野球中継でアナウンサー氏が叫ぶようにこう言ってたよ。「9回裏ニ死満塁のピンチを迎えて原監督は××投手をクローザーとして投入しました」と。「投入」とは文字通り投げ入れるとか、投げ込むことだが、ピッチャーをブルペンからマウンドに投げ込むとは、原監督ってスゲェ怪力なんだ。
この場合はまだ理解できるとして、おかしいのは料理番組だ。小さな家庭用のなべに「刻んだネギを投入しました。先生、このネギが味を引き締めるんですね」とアナ氏。たかが刻みネギをなんで地面に掘った穴に大きな石ころでも投げ込むように入れなきゃいけねェのかい。じゃぁ、ついでにこんなのはどうでぇ。「糖乳を豆乳で薄めたものをケーキの生地に投入します」ってのは…。もちろん、冗談だけど、これが実は「糖尿」患者向けのケーキ造りだったりして…。もしも、こんなアナウンサーがいたとしたら、とてもじゃないがその会社の株に大事な虎の子を「投入」する気にはならねぇよ。
おっと、その使い方が一番正しいのだよ。本来は目的の事業や計画に向けて資本、資金をつぎ込む事を「投入する」というのであって、ネギやジャガイモを鍋に入れるような場面で使う言葉じゃないのよ。大学でどんなゼミに在籍していたか知らないが、なんでも音読みの二字熟語を乱用してると、冒頭の学生さんみてぇなことになるかもよ。
(本サイトご隠居顧問=次回をお楽しみに)
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