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酒鬼薔薇本出版はアリ?

2015年6月11日(木)03時50分更新

「出版する大義名分などない商業主義の本」「表現の自由を完全に逸脱している」…本サイトに寄せられた声にも、また街やネットで拾った声にも批判が渦巻いている――そんな本が出版され、物議を醸している。

◇被害者家族もAを一定評価していた矢先

 18年前の1997年5月27日早朝、神戸市須磨区の市立中学校の校門前に、捜索願が出されていた少年(小学5年)の生首が、「酒鬼薔薇聖斗」を名乗る犯人の犯行声明文付きで置かれているのが発見された。ほぼ1カ月後の6月28日、当時、この中学校に通う3年生の少年A(14)が逮捕された。その後の調べで、同年2月に小学生女児2人がゴム製ハンマーで襲われ1人が重傷、翌3月、小学4年女児が金づちで殴られ脳挫傷で死亡、同日のうちに、別の小学3年女児が小刀で刺されて重傷を負った連続通り魔事件もAの犯行だとわかった。

神戸連続児童殺人事件の犯人が手記を出版したが…

神戸連続児童殺傷事件の犯人が手記を出版したが…

 被害者がいずれも小学生だっただけでなく、犯人もまだ15歳にも満たない中学生。何より両目をくりぬいた生首を校門に置いたり、警察に挑戦状のような犯行声明文を送りつけるなど、その残虐非道な犯行の手口は猟奇殺人そのもので、世の中を震撼させた。当然、成人の犯行であれば死刑になってもおかしくない犯行だったが、刑務所に入ることなく医療少年院送致となった。その後、逮捕からわずか7年後の2004年に少年院を仮退院、翌年には本退院が認められ、今は社会復帰をしているという。

 さて、そんなAも、すでに32歳の青年に成長し、これまでも殺害された山下彩花ちゃん(当時10)や土師淳君(同11)の家族あてに、それぞれの命日(3月23日、5月24日)に合わせて毎年のように謝罪の手紙を送るようになっていた。特に今年の手紙には、Aが自らの犯行動機や経緯を分析し、その上で謝罪をしてきたことで、遺族側も一定の評価をし、これ以上は多くを望まないという結論にも達していたという。そのAが10日(発売日は11日)、〝元少年A〟のペンネームで「絶歌~神戸連続児童殺傷事件」(太田出版)という手記を出版することが明らかになった。同著には以下のような説明文が書かれている。

 

 1997年6月28日。

 僕は、僕でなくなった。

 酒鬼薔薇聖斗を名乗った少年Aが18年の時を経て、自分の過去と対峙し、切り結び著した、生命の手記。

 「少年A」――それが、僕の代名詞となった。

 僕はもはや血の通ったひとりの人間ではなく、無機質な『記号』になった。

 それは多くの人にとって『少年犯罪』を表す記号であり、自分たちとは別世界に棲む、人間的な感情のカケラもない、

 不気味で、おどろおどろしい「モンスター」を表す記号だった。

 

 内容はAの犯行動機や経緯、また事件後の生活などを含め、ハードカバー約300ページの単行本としてまとめら、巻末には被害者家族へ向けて「どれほど大切でかけがえのない存在を、皆様から奪ってしまったかを、思い知るようになりました」とつづられている。

◇遺族は強く出版中止を要求

 ところがこれに対し、被害者家族は猛反発。まず土師淳君の父、守さんが以下のようなコメントを出した(原文ママ)。

 

 加害男性が手記を出すということは、本日の報道で知りました。

 彼に大事な子どもの命を奪われた遺族としては、以前から、彼がメディアに出すようなことはしてほしくないと伝えていましたが、私たちの思いは完全に 無視されてしまいました。なぜ、このようにさらに私たちを苦しめることをしようとするのか、全く理解できません。

 先月、送られてきた彼からの手紙を読んで、彼なりに分析した結果をつづってもらえたことで、私たちとしては、これ以上はもういいのではないかと考えていました。

 しかし、今回の手記出版は、そのような私たちの思いを踏みにじるものでした。結局、文字だけの謝罪であり、遺族に対して悪いことをしたという気持ちがないことが、今回の件でよく理解できました。

 もし、遺族に対して悪いことをしたという気持ちがあるのなら、今すぐに、出版を中止し、本を回収してほしいと思っています。

    平成27年6月10日 土師守

 

 また山下彩花ちゃんの母、京子さんは地元の神戸新聞に「『自分の物語を自分の言葉で書いてみたい衝動に駆られた』というのが加害男性自身の出版動機とすれば、贖罪とは違う気がします」とコメントし、こう続けた。「自分の物語を自分の言葉で書きたかったのなら、日記のような形で記し自分の手元に残せば済む話です。(中略)何のための手記を出版したのかという彼の本当の動機が知りたいです」と結んでいる。

◇読み手によっては犯罪の指南書になる?

 被害者家族だけではない。本サイト読者からも「大切な我が子を無残に殺害され、忘れたくても忘れられない日々を送っている遺族を全く無視した出版。第三者が介在するならまだわかるが、常識的に考えて、Aが直接、遺族の許可なく『書きたいから書く』など認められる立場でないことはわかるはず」(東京在勤の50代の商社幹部)や「反省するなら、遺族にだけ反省すればいいだけの話です。校門に生首を置いたり、酒鬼薔薇名の声明で犯行を劇場化させてみたり、Aって結局、自己顕示欲の塊なんじゃないんですか。今回の出版は、そんなAの内面が見え隠れしていて怖い」(横浜在住の40代の主婦)などと批判は多い。

 中には「今年、殺人で逮捕された名古屋大の女子大生が、このAを崇拝していたという。本の中身を読んでいないので無責任なことは言えないが、もし殺人動機や犯行の手口が詳細に書かれているようだと、読み手によっては殺人の指南書になりかねない。特に未成年が読むと、猟奇殺人に目覚める懸念もある。それにご遺族が嫌悪感を示しているならなおさら、出版は中止すべき。もし言論の自由、出版の自由を持ち出すなら、それは完全にお門違いだ」(東京都内の中学校に勤務する40代の男性教諭)というものもある。

 ただ、ネット上での書き込みを見ていると「面白そう」とか「早速買って読んだ」、「買っちゃいけないと思いながら、多分、買うんだろうなあ」などと出版物としての評判は上々なのだ。「結局、遺族への謝罪を隠れ蓑にした、体のいいAの言い訳本なんだろうね。ベストセラーになったら、印税も入ってくるし、Aにとってもおいしい」という下世話な話も流れている。

◇出版する大義名分はどこにある

 実際、1冊1500円(税別)のこの本は、10%が印税の基本とすると1万冊で150万円、10万冊売れれば1500万円がAの懐に入ることになる。当然、出版不況に悩む出版社にとっても、評判になればなるほど、儲けは厚い。同著を出版する太田出版の岡聡社長は一部取材に答え「少年犯罪が社会を驚愕させている中で、彼の心に何があったのか社会は知るべきだと思った」と話したという。

「そんなのは後付もいい勝手な理由だ」として、怒りに震えたのは、本サイト還暦超え記者のTだ。Tは続けてこう話す。

「Aがナゼ、このような残忍な犯行に至ったか?それを世間に公表して、何のメリットがあるというのか。そんなことよりも、もし彼の経験が犯罪を未然に防ぐ手立てになるとするなら、それはズバリ、Aを専門機関に強制収容して、モルモットのように徹底的に精神分析を行う。もちろんそんなことは人道上できないが、Aの手記が出版されることで少年犯罪の防止につながることは100%ないし、何より遺族の心情を逆なでしてまで出版する大義名分はどこにもない」

 犯罪者と被害者…もちろん犯罪者も罪を償えば、社会復帰は許される。言論の自由、出版の自由も法のもとでは平等かもしれない。ただ悲しみに暮れる犯罪被害者家族に、果たして社会復帰した元犯罪者が、その傷口に再び塩を塗るような真似をして許されるのか。その答えは…。読者の皆さんも、ぜひ考えていただきたい。


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