集中連載『テレビって奴は』第25回~「潜入する」の誤用に御用~
あと○年と●ヵ月で傘寿を迎える本サイトご隠居顧問が物申す! いつも「テレビはわれら年寄りの最大の親友。だからこそのお節介な忠告です」というご隠居が、またまたテレビから流れるおかしな誤用に御用だ。ご隠居顧問の小噺連載『テレビって奴は』の第25回は「『潜入する』のはスパイかコソ泥か」。早速、いってみよう。
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一度使ってピタッと来ると、あまり深く考えずに連発するようになるのが「言いやすく、歯切れがよく、耳にも心地よく、そして重みのある言葉(単語)」らしい。第1回に紹介した「見てとれる」や、前回取り上げた「投入」がその代表的なものだと思っていたら、まだもう一つ、もっと凄いのがあったよ。「潜入」って奴。
◇多用される潜入という言葉
例えば、女優や女性タレントを仕立てて有名美術館に見学に行ったとしよう。番組のナレーター氏の曰く「いよいよ女優(またはタレント)の××さんが○○美術館に潜入!」。
この潜入って単語は主にバラエティーや探訪もの、またはお宅拝見などで多用される。そこでまた、広辞苑をひもとくと、「潜入=こっそりと入りこむこと。水中にもぐり入ること」とある。こりゃぁおだやかじゃねぇぜ。美術館に「こっそりと入る」のは怪盗ルパンくらいかと思ってたら、美人のタレントがやすやすと潜入できるとは…。また、例えば豪邸に住む有名人宅にも、お笑いコンビなどが楽々と潜入を果たす。あるいは普通の人は絶対に入れない危険な場所、例えば深さ50㍍の地下施設や、地上100㍍の鉄塔などにカメラとともに「潜入」する時、字幕でこう断っている。
「番組では特別な許可をもらっています」?????! なんじゃこりゃぁ。こっそり潜り込むんじゃないなら、潜入なんて言葉を使ってくれるなよ。
そのくせ、海中深く潜って水中撮影をやろうっていう、本来、使うべきときに「これから、カメラマンが潜入します」なんて聞いたことがない。不思議な国でアリンスヨ。
◇潜入には予想外の意味もある
またまた子供を引き合いに出して恐縮だが、テレビの影響で将来こんな使い方をする小学生が出ないとは言いきれまいて。
「先生! 学芸会の小道具を作る画用紙を調達するため、コンビニに潜入してきます」。おいおい、こっそり入り込むのはいいが、くれぐれも万引きなんかしてくれるなよ。
ところで、潜入にはもう一つの使い方があるんだってさ。広辞苑にいわく、「(天文学)恒星、惑星が月の背後にかくれる現象」と。こいつは80年近く生きてきたこのジジイも勉強になったぜ。といって、一体だれに礼をいっていいものやら。
この際、ちょっと前に北朝鮮に「潜入」してプロレスの試合を見せてピョンヤン市民を喜ばせたアントニオ・猪木氏に「参りました」って最敬礼でもしておこうかな。「大物政治家をはじめ日本人のだれもがなし得なかった日朝親善を少しでも進めてくれてありがとう」と。猪木氏のプロレスの師・力道山もあの世から大きな拍手を送っていることだろう。もし、これが発展して生存する全ての拉致被害者が帰国できることに繋がったら、彼は稀代の英雄に祭り上げられるはずだ。 (本サイトご隠居顧問=次回をお楽しみに)
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