集中連載『テレビって奴は』第26回~炎天の中の中?~
あと○年と●ヵ月で傘寿を迎える本サイトご隠居顧問が物申す! いつも「テレビはわれら年寄りの最大の親友。だからこそのお節介な忠告です」というご隠居が、連日の「誤用に御用だ」とばかりに言葉のプロたちに噛みついた。ご隠居顧問の小噺連載『テレビって奴は』の第26回は「炎天下の中って?」。この誤用、わっかるかなぁ。
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◇ふだん使う日本語に無駄がある
番組名はさておいて、男女のタレントさんや時には辛口の評論家などに俳句を作らせて、これを容赦なくぶった切る女流俳人がいる。その的確な批評と語り口の小気味よさは、近年のバラエティー番組としては出色で、俳句のコーナーに限ってだが、ぞっこん惚れこんでいる。例えばこんな調子だ。「俳句は五、七、五のたった十七文字の詩なのね。だから一文字の無駄も許されないの。でも、この人(出演者の一人)の作品には四文字もの無駄な表現が使われていて…」。四文字あればどのくらい詩の世界が広がるかを、全員が納得する形で直しを入れて見せる。実に痛快、実に明快。
司会の通称ハマちゃんこと浜田雅功は普段から相手が学者だろうと先輩だろうと、その道の知識も実力もないのに「あんた、それ何言うとんの」など傍若無人にからんでいくので、おいら嫌いだが、この女流俳人には歴とした実力の裏付けがあるから、どんな辛口批評を受けても、腹が立つことはない。むしろ、カラッとした笑いさえ残るんだわさ。
『朝まで生テレビ』の司会者・田原総一郎氏は、無駄な言葉が三文字あったとされ、10人中7位の「ど凡人」評価を受けて納得したように苦笑い。まさに胸のすく采配ぶりだった。つまり、ふだん何気なく使っている日本語だが、無駄な、二重の表現は日本語の美しさ、リズムを壊すということを教えてくれているのだよ。おいらは逆に人生に必要な言葉まで省略して損をしているけどさ。
◇これは日本語とはとても言えません
その発言者がアナウンサーなのか、リポーターなのか、あるいはナレーターといわれる人なのかはハッキリしない。たとえハッキリしてたとしても、分からないふりをするのが武士の情けだろう。この夏に何度聞かされたことか。「気温38度という炎天下の中、災害の復旧に尊い汗を流すボランティアの人たち」「今日も猛暑日の予報が出ています。炎天下の中お出かけになる際は、熱中症には充分お気を付け下さい」。この通りだったかどうかは自信がないが、とにかく炎天下の中なのだ。
おいらがガキの頃、「秋の遠足は一泊どまりなんだぜ」と自慢しては笑われたり、バカにされたりしたもんだ。近所のヤニさがった大学生がさ、「きみねぇ、どうしても語呂が悪くて言いにくかったら、一泊旅行とか、一泊二日とかに言い替えたらどうお?」なんてね。おいらにとっちゃぁ大きなお世話だったけど、これは後にいくらか役に立ったと今でも思っているぜ。
説明するのも億劫だが、炎天はじりじりと焼きつくような晴れた夏の日、これに下がつくと「炎天のもと」「炎天の中」ってことになる。従って、炎天下の中ってぇのは「炎天の中の中」と意味がダブってくるので、先の俳句の先生に言わせるまでもなく、「とても勿体ない表現であると同時に、これは日本語とはとても言えませんですね、ハイ」なんだよね。
でも、おいらとしてはたまさか『誤用に御用』のネタをもらえて、炎天下の中も厭わず、ばあさんの掃除の命令に従っちゃったけどさ。
(本サイトご隠居顧問=次回もお楽しみに)
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